山川浩（やまかわ・ひろし）略伝

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◆第六十六話之二：山川浩（やまかわ・ひろし）略伝◆

■山川浩は、弘化二年（一八四五）会津藩家老山川尚江の長子として、若松城下の

本二ノ丁で生まれた。初名を大蔵（おおくら）といい、与七郎、常盤とも称した。

諱は重栄、字は士亮、維新後は浩と改め、屠龍子、去二堂主人などの号がある。遠

祖は高遠時代から保科氏に仕え祖父の重英、父の尚江重固は藩の家老職をつとめた

が、浩は父が早く亡くなったため祖父のもとで育てられた。

■文久二年（一八六二）十八歳のおり、容保が京都守護職を拝命し、彼もまた物頭

として上京を命ぜられ常にその側近にあった。

■慶応二年（一八六六）幕府は樺太境界協議のために外国奉行の小出大和守、目付

石川利政を露国派遣使として送ったが、浩もこの一行に随行してロシアへ渡航、こ

の旅行中の見聞によって世界の大勢を知り、攘夷の非なるを悟って帰藩した。慶応

四年（一八六八）、鳥羽・伏見の戦いでは林権助、白井五郎太夫の敗兵をまとめて

大坂に退き、会津藩の傷兵らを江戸へ護送するために尽力した。幕府の倒壊後は西

軍に徹底抗戦する決意を固め、幕府の軍事教官であったフランス士官のシャノアン

から洋式練兵の伝習を受けた。

■帰藩後は若年寄に任じられ、軍事会計を担当し、幕府の許可を得て江戸より加藤

宗周・明宗といった腕のよい彫金師多数を呼び寄せて西出丸に金銀吹所を設け、一

分、二分、一両の三種の通貨を鋳造し、軍費を助けた。

■戊辰の役では会津藩兵の一隊を率い、幕府歩兵奉行の大鳥圭介の旧幕軍と合体し

下野各地に転戦、板垣退助の軍と藤原に戦って大勝、その勇名は谷干城（たに・た

てき）にも知られた。八月二十二日、城下の形勢が悪化、西軍東部に迫るの報に接

し、藩主の命により急きょ呼び戻され日光口田島方面より退陣したが、浩が急いで

引揚げてみると城はすでに西軍の重囲下にあり、城内に入ることはできなかった。

そこで浩は一計を案じ、小松集落の獅子団に頼んでこれを先頭に立て、“通り囃子

（はやし）”を奏させながら西軍のあっけにとられているなかを堂々と行進し、一

兵も損ずることなく入城を果たした。

■籠城中の将士たちは、浩のこの入城によって士気を盛り返し、藩主容保もまた大

変喜び浩の機智をおおいに賞賛したという。入城後の浩は防衛総督に任ぜられ、本

丸にあって軍勢を総括した。

■城陥るにおよんで禁固謹慎を命ぜられ、斗南移封の後は、斗南藩大参事として全

責任を負って藩の経営に苦心した。

■廃藩後は青森県に出仕していたが、明治四年にこの職を辞し、陸軍少将谷干城の

推挙によって陸軍裁判所に勤め、同六年、陸軍少佐として熊本鎮守府に転じた。明

治七年、佐賀の乱が勃発するや、これの鎮圧に参戦して傷を負い、同十年の西南の

役においては中佐となって衝背軍に属し、別動第二旅団参謀として熊本城を包囲す

る薩軍を撃破、籠城していた谷干城を救出した。このときの戦功により、明治十三

年大佐に昇進し、陸軍省の人事課長となった。

■明治十八年、時の文部大臣森有礼は浩を軍籍に置いたまま東京高等師範学校長に

任じ、女子高等師範学校長をも兼ねさせた。これは明治新政府の方針によったもの

だが、教員養成を目的とする師範教育に、軍隊的規律の導入を考慮しての人選であ

ったという。後、浩は陸軍少将に昇進、学校長の方も同二十四年まで努めた。

■これより先の明治二十三年、帝国議会の開設せられるにあたり、浩は勅撰をもっ

て貴族院議員に迎えられたが、彼はしばしば当路者の政策に反対し、畏れられたと

いう。このため世人らは谷干城・曽我祐準とともに並び称し貴族院の三将軍と呼ん

だ。

■浩の人となりは精悍にして機智に富み、藩の教学であった朱子学を学ばずに讃岐

の水野某を師として陽明学を学ぶなどの気骨があった。書史に通じ和歌もよくし、

その著書には『桜山集』『京都守護職始末』などがあるが、後者は守護職始末を正

確なる史料によって忌憚なく記述したもので、会津藩の態度を公明に主張し維新史

研究上欠かすことのできない基本文献となっている。

■明治二十四年頃より呼吸器の病を患い療養生活に入っていたが、翌年二月男爵に

叙せられて華族に列し、三十一年三月六日没した。享年五十四歳であった。彼の弟

妹には東大総長となった山川健次郎、東京女子高等師範学校舎監となった二葉、さ

らにわが国初の女子留学生で大山巌の妻となった捨松などがある。

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