■『奥州会津・檜原軍物語』 ―(おうしゅうあいづ・ひばらいくさものがたり) |
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はじめに |
歴史春秋社より『奥州会津・檜原軍物語』の現代口語訳をやってみないかといわれたとき、 |
私は、私がやるやらないは別として、大変結構な企画であると思った。 |
私が結構な企画だと即座に思った理由には、私なりに思うところがあったからである。その |
一つは、近頃の会津関係の歴史(的)出版物というと、戊辰物が圧倒的に多いところに起因 |
する。それはそれなりに結構なことであるとは思っている反面、これでも困ったものだという気持 |
もある。もっと全時代的に、いろいろと書かれてもよい筈であるし、そうでなければ、会津の歴史 |
を本当に解明したり、理解したということには繋がってゆかないのではないかと思うの である。 |
第二には、会津は歴史が古いだけに、いろんな古資料が残されている。しかし、そうした |
古資料も、時代の急激な変化と、それに伴う国語力の減退とによって、活字本にされたもの |
であっ ても、今日なかなか難解になってきているということである。やはり物によっては今のうちに |
いろんな資料を現代語訳にしておかないと、近い将来、そうした資料はきわめて少数の人を |
除いて、利用することのできなくなる時代が、遠からぬうちにくるような気がしてならない。 |
大雑把にいって、そうした私の感懐が今回の『檜原軍物語』の現代口語訳に、双手を挙げて |
賛意を表したゆえんである。 |
出版物の対象を考え、考証や逐語訳はなるべくさけて、原書の趣旨をそこねない程度で |
意訳に重きをおき、思いきり平易にすることに心掛けたつもりである。 |
本書の持つ特色というか、その価値は資料に乏しい会津の中世を書いているということと、 |
史実に基づいて多分に文学的手法で書かれている点、単なる歴史資料などにはみられない、 |
当時のさまざまな風俗、たとえば戦の風俗、主従関係、支配者と農民との関係、生死感など |
が立体的に描かれているという点では、かなり説得力を持った貴重な資料であると、私は |
思っている。 |
1981年1月30日 小島一男 |