戊辰戦争百話・会津
■『奥州会津・檜原軍物語』 ―(おうしゅうあいづ・ひばらいくさものがたり)
はじめに
 歴史春秋社より『奥州会津・檜原軍物語』の現代口語訳をやってみないかといわれたとき、
私は、私がやるやらないは別として、大変結構な企画であると思った。
 私が結構な企画だと即座に思った理由には、私なりに思うところがあったからである。その
一つは、近頃の会津関係の歴史(的)出版物というと、戊辰物が圧倒的に多いところに起因
する。それはそれなりに結構なことであるとは思っている反面、これでも困ったものだという気持
もある。もっと全時代的に、いろいろと書かれてもよい筈であるし、そうでなければ、会津の歴史
を本当に解明したり、理解したということには繋がってゆかないのではないかと思うの である。
 第二には、会津は歴史が古いだけに、いろんな古資料が残されている。しかし、そうした
古資料も、時代の急激な変化と、それに伴う国語力の減退とによって、活字本にされたもの
であっ ても、今日なかなか難解になってきているということである。やはり物によっては今のうちに
いろんな資料を現代語訳にしておかないと、近い将来、そうした資料はきわめて少数の人を
除いて、利用することのできなくなる時代が、遠からぬうちにくるような気がしてならない。
 大雑把にいって、そうした私の感懐が今回の『檜原軍物語』の現代口語訳に、双手を挙げて
賛意を表したゆえんである。
 出版物の対象を考え、考証や逐語訳はなるべくさけて、原書の趣旨をそこねない程度で
意訳に重きをおき、思いきり平易にすることに心掛けたつもりである。
 本書の持つ特色というか、その価値は資料に乏しい会津の中世を書いているということと、
史実に基づいて多分に文学的手法で書かれている点、単なる歴史資料などにはみられない、
当時のさまざまな風俗、たとえば戦の風俗、主従関係、支配者と農民との関係、生死感など
が立体的に描かれているという点では、かなり説得力を持った貴重な資料であると、私は
思っている。
1981年1月30日  小島一男

【目次】
●巻之一 ・穴沢四郎兵衛、一族を裏切る
・葦名氏の系図と葦名氏会津拝領のこと ・新右衛門、風呂屋において討死す
・穴沢越中守、山賊を退治する ・穴沢加賀守の自刃
・越中守俊家、檜原に移り住む
・穴沢十郎、賊渡所において討死す ●巻之三
・穴沢一族、戸山に城を築く ・穴沢の妻子、狐火に送られて落ちのびる
・伊達輝宗公、戦の評定を催す ・穴沢一族の首、米沢に送られる
・戸山城の戦い ・穴沢善七郎、大塩に帰る
・穴沢一族、巌山に城を移す ・穴沢助十郎、関東より帰る
・檜原の合戦 ・穴沢の一族、大塩の城に居住す
・葦名氏と伊達氏の和睦 ・政宗公、檜原に城を築く
・葦名盛氏公の御隠居と嫡男盛興公の御逝去 ・大内備前、政宗公の密使を追い返す
・関柴備中守の陰謀
●巻之二 ・穴沢一族のいくさ評定
・盛隆公、葦名家を相続する ・北方(喜多方)の合戦
・盛氏公の御逝去 ・政宗公、大塩萱峠に出陣す
・葦名盛隆公の武功 ・穴沢善七郎、政宗公を射落さんとす
・盛隆公、三浦介に任ぜられる ・穴沢一家の氏神参り
・小荒井の合戦 ・仙道小手森城の合戦
・大荒井を没収される ・二本松義継、輝宗公をとりこにする
・松本太郎の反逆 ・二本松の籠城
・亀王丸の御誕生 ・渋川の合戦
・盛隆公の横死 ・檜原の合戦
・亀王丸、葦名家を相続する ・梅王丸、二本松を去る
・政宗公、会津出陣の機をうかがう ・亀王丸の早世
・政宗公、密使を檜原に送る